2018年12月10日月曜日

大河ドラマ「西郷どん」が凄かった3つの理由

 2018年のNHK大河ドラマ「西郷どん」、いよいよ次回が最終回となってしまいました。

 12月9日放送の「西南戦争」の回では、いよいよ西郷隆盛にも死亡フラグが立ち、事実を知っている私達からみても「ああ、覚悟の時が来たなあ」という感じがひしひしと伝わるわけですが、ふだんはいちおう「歴史的なものを調べている身」としてこの大河ドラマ「西郷どん」が素晴らしかった理由を3つほど挙げてみたいと思います。

 近年の大河ドラマは、特に戦国モノを中心にどれも出来がよく、「真田丸」「おんな城主 直虎」あたりは、特に歴史に詳しくない一般の方が視聴しても十二分に「面白い!」と言える出来だったように思います。

 今回の「西郷どん」も、基本的にはこの「わかりやすい」「一般向け」な演出が豊富に入っていて、個性的なキャラクターや、心が動かされる名場面もたくさん盛り込まれていました。
 しかし、それとは別に、「西郷どん」のここが良かった!という点は3つあります。




【西郷どんのスゴイ!ポイント その1】

 尊皇攘夷から、開国・維新へと至るプロセスの理由付けが明快だった点。

 実は「外国を打ち払え・日本を守るんだ!」という発想と、明治維新による「開国しよう・文明開化だ!」という発想は、単純に考えると真逆で、これがいつのまにか入れ替わってしまうのが明治維新のイデオロギーのわかりにくいところです。

 私も、実はこれまでここが一番わかりにくくて嫌いでした(笑)

 これも大河ドラマでありましたが、「新撰組」なんかを見ていると、「ところで、今誰が敵で誰が味方で、なんのために戦ってるんだっけ?」ということがわけわからなくなるんですが、今回の「西郷どん」では、とくに「ひー様(徳川慶喜)」という人物をうまく使うことで、「尊皇攘夷の理想は、諸外国との現実を前にしたときに、矛盾したり・そのままではうまくいかないだろう」ということが誰にでもよくわかる筋書きになっていました。

 このあたりは、すっごく良かった!幕末の混乱が一番「理解しやすい・わかりやすい」話になっていたと思います。(ただ、うまくやらないとフランスに日本の一部が取られちゃってたかも、という辺りは、盛りすぎだったかもしれませんが)




【西郷どんのスゴイ!ポイント その2】

 善悪二元論っぽく描きながら「物事には裏がある」ことをちゃんと示した点
 ひー様が、なぜ「先手を打って大政奉還したか」とか、そのあたりにも関わってくるのですが、ドラマの軸は「善の西郷VS悪の人物」という雰囲気で描かれています。

 たとえば、「西郷は善、島津久光は悪」 「西郷は善、徳川慶喜は悪」という風に、その折々のタイミングでは、善悪二元論でドラマが展開します。

 もっともクライマックスとなるのはやはり「西郷は善、大久保は悪」という維新後の世界観でした。

 視聴者からすれば、いわゆる勧善懲悪もの「水戸黄門」のように、めっちゃわかりやすいのですね。この構図が。

 ところが、ある程度、物理的にも心理的にもドンパチ争いがあって、話が終わりかけると「実はそれぞれ悪とされた人物にも、彼らなりに信念をもって考えていた善があって、それは西郷と視点が違っていただけなんだ」ということが挿入されるのです。

 慶喜なりに考えた作戦はこうだった。久光なりにこう考えていた。そして「一蔵どんが、天下国家の目線で考えた善はこうだった」ということがちゃんと示されるのです。

 だから、混乱しがちな幕末維新時期の「イデオロギーの変容」もわかりやすくなるし、何より「男たちは、それぞれ全身全霊をかけて本気だったんだ」ということが伝わるから、どちらの立場も「カッコいい!」となるのです。

 このカッコよさは、名作映画「眼下の敵」さながらです。「眼下の敵」はアメリカの駆逐艦とドイツの潜水艦の死闘を描いたものですが、一般的には「アメリカが善で、ナチスドイツは悪なんだけれども、実は水面下ではまさにこうだったんだ!」という点が公平に見て面白いし、そしてどちらの立場であっても「カッコいい!」というものでした。

 近年では「紅の豚」なんかも、こうしたかっこよさを描いていました。




【西郷どんのスゴイ!ポイント その3】

 家族兄弟・女性たち・子供たち・友たちを略さず丹念に描いた点

  歴史上の偉人というのは、庶民から見れば雲の上の人であり、彼らは天下国家のためにいろいろ活動するので、いわゆる「公の仕事」での成果がメインとなって歴史に刻まれます。

 しかし、「西郷どん」では、吉之助の「家族・きょうだい」のその時々の動きや、最期、その後が丹念に描かれます。

 いわば「私(わたくし)の暮らし」が略されなかったのです。
 象徴的なシーン、「川口雪篷がなんでまで西郷家にいるんだ?」とか「東京でも熊吉がいっしょ?」とか、そういう歴史本編からはどーでもいいと思えるような小さい部分をちゃんと描ききったところがすごい。

 だって、本当に史実として川口雪篷は、最後まで西郷家の執事のように男手として家を守るし。熊吉もちゃんとずっと従っているのです。

 あるいは、竹馬の友だったメンバーが、どのように死んでいったり、その後の立場になるのかも、ちゃんと描かれていました。むしろ、公人西郷の姿ではなく、私人西郷を積み重ねることで、歴史本編を描いている感じのほうが強い印象を受けました。

主演の鈴木亮平さんが、変態仮面からいかに西郷隆盛になるのか、いろんな意味でドキドキしていましたが、いよいよ最終回!素晴らしい作品だったと思います。